各地の公園や野外スポーツなど、身近な場所でみられる芝生。住民のみんなが自由に使えるエリアとしてのイメージがある一方、当時芝生が普及した16世紀ヨーロッパでは、上流階級の裕福の象徴として愛されていました。

今回は少し趣向を変えて、芝生の歴史を紐解いていきましょう。ヨーロッパからアメリカ、そして日本に芝生の文化はどう伝わっていったのでしょうか?

目次

    ヨーロッパと芝生、そして芝スポーツの発展

    湿潤で温暖なヨーロッパ。芝生にとってこのような気候は非常に適しており、16世紀のルネサンス期では、フランスやイギリスの富裕層が芝生を栽培していました。とはいえ、あくまでもカモミールやタイムを中心に栽培しており、芝生はまだメインストリームにありませんでした。

    本格的に注目されたのが17世紀のイギリスといわれています。裕福な大地主が邸宅に芝生を植え、手入れをしていました。当時は芝刈り機が普及していなかったため、綺麗な芝生を維持するには大量の人手、ヤギや羊といった家畜が必要でした。それができるのは富裕層に限られていたので、「芝生=富、地位の象徴」というイメージがつくられていきました。

    また、スコットランドでは芝生を活かしたスポーツであるゴルフとローン・ボウリングが発展しました。前者は日本でも広く知られていますが、後者は初耳という方は多いのではないでしょうか?

    ローン・ボウリングはボウリングの原型であり、大まかに言えば従来のボウリングとカーリングを合わせたスポーツです。ジャック(ピン代わりの目標)に向けて、どれだけボールを投げて近づけることが出来るかを競うため、非常に直感的で分かりやすいルールになっています。

    19世紀になると、産業革命による工業化・都市の発展にあわせて、都市の美化運動が盛んに。その流れで、緑の芝生が注目を集めました。公園もこの時期から作られるようになり、そして芝刈り機が大量生産出来るようになったことから、より広い層に芝生が普及していきました。

    ところで、この普及にはもうひとつの地域が深く関わっています。それが、アメリカです。

    アメリカの芝生は住宅地にあり

    ヨーロッパの人々が新大陸アメリカへ入植し始め、人だけでなくモノも持ち込まれた中で、芝もまた新天地へたどり着くことになりました。

    元々はヨーロッパの文化ですから、芝の文化もヨーロッパ本土のものと連動して始まりました。そしてイギリスの美化運動から生まれた公園は北米に移るにつれて、芝生を始め緑と水を象徴とし、ベンチやブランコ、ピクニックテーブルを兼ね備えた、より民主的で市民に開かれたものへと変貌していきました。

    さらに芝生は広く普及していきます。第二次世界大戦後まもなく、手頃な価格の住宅地であるレヴィットタウンがロングアイランドに建設されました。この住宅地の特徴は何といっても安価芝生でした。

    戦争からの帰還兵とその若い家族を受け入れるため、安価な住宅はとても重宝されました。そんな彼らを最初に迎えるのは、前庭の青々とした芝生。「訪問者が最初に見るのは芝生です。第一印象は最後まで残るものです」と打ったレヴィットタウンの宣伝文句は大当たりし、前庭の芝生は全米各地の住宅地に取り入れられました。

    後に、前庭の芝生はアメリカンドリームの象徴になっていきました。

    明治前後で異なる文化、日本の芝生

    一方、ヨーロッパと遠く離れた日本では、当初芝生の文化は独自の形で発展してきました。

    森林を開墾して草原が広がり、芝生を始めとした植物が人々に身近になっていきました。そのひとつの例として、農事と神事が結びついた七草摘みが挙げられます。他にも、芝生を題材に歌を詠むこともありました。

    平安の頃には貴族によって芝生を用いた庭園が出来たとされ、江戸時代になると上流階級だけでなく幅広い層に芝生の庭園が広まりました。また、大都市では火除け地として、芝生が使われることもありました。ですが、ヨーロッパと比べるとそれほど芝生が注目されていない文化だったといわれています。

    そして、文明開化の明治になると、日本における芝生の扱われ方が大きく変わります。

    代表的なものとして、公園や競馬場、ゴルフ場などの運動やレクリエーションを目的とした芝生利用は、当時日本人にとって非常にユニークな文化でした。また、新しい洋風庭園の形式も輸入され、芝生を庭園にどう用いるかも変わっていきました。

    おわりに

    このように、世界各地で芝生の立ち位置が「一部の富裕層、上流階級の嗜み」から、「一般に開かれた存在」へと変遷していったことがわかります。芝刈り機の大量生産、芝生のある住宅地の大ヒットなど、様々な影響を受けて今日の芝生文化が形成されていきました。

    もしかしたら、近くの公園やスタジアムの芝生は、長い時と海を超えてやってきた歴史の証人かもしれませんね。

    参考文献

    The History of Lawns | Planet Natural
    https://www.planetnatural.com/organic-lawn-care-101/history/

    The history of lawns | Gardens Illustrated
    https://www.gardensillustrated.com/feature/the-history-of-lawns/

    How the Perfect Lawn Became a Symbol of the American Dream – HISTORY
    https://www.history.com/news/lawn-mower-grass-american-dream

    アメリカの家の前にはなぜ芝生があるのか? | 町山智浩 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
    https://www.newsweekjapan.jp/column/machiyama/2010/10/post-241.php

    芝生大国アメリカ。なぜこんなに広まった?日本でも役立つメンテナンス方法とは?|アメリカ生活アグリ日誌Vol.9|農業・ガーデニング・園芸・家庭菜園マガジン[AGRI PICK]
    https://agripick.com/2977

    日本における芝生文化の展開, 北村 文雄
    https://doi.org/10.11275/turfgrass1972.27.supplement1_1

    芝生文化考II, 北村 文雄
    https://doi.org/10.11275/turfgrass.38.2_141

    芝生文化考III, 北村 文雄
    https://doi.org/10.11275/turfgrass.38.2_141

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